近年、犬の高齢化が進んだことにより、10歳以上の犬の30%以上が心臓病と言われるほど、犬の心臓病は増加傾向にあります。
また、犬の死亡原因をみても、腫瘍に次いで、2番目に多いのが心臓病をはじめとする循環器疾患となっています。
犬では,死亡原因は腫瘍が最も多く 18.4%,循環器疾患が次いで 17.4%,続いて泌尿器疾患 15.2%であった
ー動物病院カルテデータをもとにした日本の犬と猫の寿命と死亡原因分析
愛犬が心臓病だと診断されて、不安に思っている飼い主さんも多いのではないでしょうか。
心臓病は、早期に発見し適切に治療すれば、進行を遅らせたり、症状を軽減したりできる可能性もあります。
この記事では、「犬の心臓病についての概要」と「心臓病の際に与えるドッグフードは、どのようなものを選んだらよいのか」獣医師監修のもとに解説していきます。
監修者 獣医師 小川篤史 こすもす動物診療所院長(宮崎大学農学部獣医学科卒業・明石市獣医師会所属) 最初は別の道を選択するも、獣医になる夢を捨てきれず獣医学科を受験。兵庫県加古川市の動物病院に勤務後、兵庫県明石市に「こすもす動物診療所」を開院。犬や猫、小動物を中心に診療・予防医療を行う。 |
※フードの原材料・成分・価格等は記事作成時点のものであり、変更になっている可能性があります。最新情報は各公式サイトでご確認ください。
犬の心臓病とは
犬に良く見られる心臓病には、以下のようなものがあります。
①僧帽弁閉鎖不全症
左側の左心房と左心室の間にある「僧帽弁」がきちんと閉まらず血液が逆流する。犬の心臓病でいちばん多く見られる症状。
②三尖弁閉鎖不全症
心臓の右心房と右心室の間にある「三尖弁」がきちんと閉まらず血液が逆流する。
③肺動脈弁狭窄
心臓から肺へ血液を送る動脈の弁が狭くうまく開かず、肺動脈への血流が妨げられる。(完全に開かないものは「肺動脈弁閉鎖」という)
④大動脈弁狭窄
心臓の左心室と大動脈の間にある「大動脈弁」が狭窄し、心臓から全身に血液が送り出しにくくなってしまう。
⑤心室中隔欠損症
右心室と左心室の間に生まれつき穴が開いている状態。
⑥拡張型心筋症
左心室内腔の拡大や心室の収縮能低下を起こす病気。
その他に、動脈管開存症や心房中隔欠損症、ファロー四徴症などの先天性奇性や肺高血圧症、心タンポナーデ、フィラリア症などがある。
【犬の心臓の位置・構造】
犬の心臓病の症状
心臓の機能が低下してくると、具体的には次のような症状があらわれます。
①咳が出る。
②運動をしたがらない。
③失神する。
これらの3つが、心臓病の特徴的な症状です。
心臓病が進行すると、心臓が大きくなり気管が圧迫されるため、咳が出ます。
気管の圧迫が強いと、「吐くような咳」や「のどに何かが引っかかったような咳」をするのが特徴的です。
血液の流れが悪くなり、酸素が不足するため呼吸も荒く、呼吸数も多くなります。
また、心臓の機能低下により、散歩中に「立ち止まるようになる」「抱っこをせがむようになる」など、運動をしたがらなくなります。
「単なる加齢」ととらえがちですが、普段から注意して観察するようにしましょう。
さらに、心臓から脳へ送り出される血液の量が減り、脳の酸素が不足すると失神し、突然倒れる場合もあります。
心臓病の急な悪化は対処が遅れると命取りにもなります。これらの症状がみられるようになったら、すぐに動物病院を受診しましょう。
犬の心臓病の検査と治療
犬の心臓病は、動物病院で聴診をしたときに心臓の音に雑音が混ざることで発見される場合がほとんどです。
聴診器がなくても、注意深く観察されていると、まれにですが、飼い主さんの方で雑音に気が付かれる場合も。
聴診後に超音波検査やレントゲン検査などを行い、どこにどのくらいの異常があるかを診断します。
僧帽弁閉鎖不全症の根本的な治療は手術ですが、手術が可能な病院が限られていますし、高額な費用が必要なため、多くの場合は内服薬による治療を行います。
心臓の働きを強める「強心薬」や心臓の負荷を減らす「血管拡張薬」、余分な水分を排出させて心臓の負担を減らす「利尿剤」などをそれぞれの症状に合わせて利用します。
心臓病の犬向けドッグフードの選び方
では心臓病の愛犬に与えるドッグフードは、どのようなことに注目して選べばよいでしょうか?
基本的には、獣医師が「犬の現在の心臓病の状態」を考慮して処方する「療法食」を与えることが望ましいです。
療法食を選ぶ際に大切なのは、歴史や実績があるか。エビデンスがあるかです。
長年、ドッグフードの研究・開発を行っており、「その療法食がどれだけ心臓病の症状を改善するのに役立ったか」というデータのあるメーカーのフードを選ぶようにしましょう。
心臓病の犬向けのドッグフードはどのような点に考慮して製造されているのか、確認しておきましょう。
①適切な塩分バランスに調整されてる
僧帽弁閉鎖不全症をはじめとする心臓病の犬は、塩分を排泄するのが難しくなります。
ナトリウム(Na)やクロール(塩素:Cl)といった塩分の排泄がうまく行われないと、心臓が肥大したり、うっ血が進み高血圧にもつながることになるため、塩分の摂取量を控える必要があります。
また、心臓病は、腎臓病を併発しやすいといった特徴があります。
腎臓は、血液をろ過して不要物を尿として排出する役割を果たしていますが、心臓病によって血流が不安定になると、腎臓への血流量も少なくなり腎機能が低下しやすくなると言われています。
そのため、腎臓への負担を減らす必要があり、リンの摂取量を制限することも推奨されています。
【心臓病の犬で推奨される摂取量】
●ナトリウム 0.15~0.25%
●クロール ナトリウムの1.5倍に調整
●リン 0.2~0.7%
②心臓機能をサポートする成分「L-カルニチン」「タウリン」が配合されている
「L-カルニチン」と「タウリン」の欠乏は、犬の心臓病と関係するという研究報告があります。
L-カルニチンは、エネルギー物質の運搬やミトコンドリアの解毒に関わる重要な成分ですが、犬の拡張型心筋症などでは、L-カルニチンの欠乏が見られる場合があります。
一方、タウリンは、心臓の収縮などに関係する栄養素ですが、拡張型心筋症のアメリカンコッカースパニエルやゴールデンレトリバーでは、タウリン濃度も低下しているという報告があります。
そのため、L-カルニチンやタウリンを増量して与えることで、心臓機能を健やかに保つことができます。
③ビタミン類がバランスよく配合されている
心臓病の治療の際に、降圧利尿剤を投与すると、ビタミンB群やカリウム・ナトリウムが尿中に多く失われる場合があります。
ビタミンB群は、糖質、脂質、タンパク質をエネルギーに変えたりや、皮膚や被毛の健康維持に欠かせない栄養素です。
降圧利尿剤を投与している犬には、ビタミンB群をはじめとしたビタミン類がバランスよく配合されたフードを選ぶと良いでしょう。
④EPA、DHAが心臓病の進行を抑制する可能性も。
いくつかの論文で、オメガ3系脂肪酸「EPA」「DHA」などが、心臓病の進行を抑制する作用がある可能性が示されています。
EPAやDHAには、炎症を軽減する効果があることが知られています。
しかし、具体的にどのくらいの量を摂取したら予防的な効果が得られるのか、といったことはまだ研究段階ですが、「不整脈が起こるリスクを減らす」といった報告があり、心臓病の悪化を防ぐ効果が示唆されています。
EPAおよびDHAの摂取は心不全の犬のIL-1活性を抑制し、イヌの生存期間を延長させることが示唆された
ー慢性心臓病の栄養管理を巡る新たな展開と可能性
心臓病向けのドッグフードには、EPAやDHAが多い「魚油」などを配合するものも多いため、積極的に利用するとよいでしょう。
心臓病の犬向けドッグフード6選
①ロイヤルカナン 犬用 早期心臓サポート + 関節サポート
商品名 | ロイヤルカナン 犬用 早期心臓サポート + 関節サポート |
対象年齢 | 成犬用 |
生産国 | フランス |
原材料 | コーン、米、小麦粉、超高消化性豚タンパク(消化率90%以上)、超高消化性小麦タンパク(消化率90%以上)、肉類(鶏、七面鳥)、動物性油脂、加水分解タンパク(鶏、七面鳥)、小麦、魚油(オメガ3系不飽和脂肪酸〔EPA+DHA〕源)、チコリー、加水分解コラーゲン、大豆油、フラクトオリゴ糖、緑茶抽出物(ポリフェノール源)、マリーゴールドエキス(ルテイン源)、アミノ酸類(DL-メチオニン、タウリン、L-アルギニン、L-リジン、L-カルニチン)、ゼオライト、ポリリン酸ナトリウム、クルクミン(ウコンエキス)、ミネラル類(Ca、Cl、K、Mg、Na、Zn、Mn、Fe、Cu、I、Se)、ビタミン類(A、コリン、D3、E、C、パントテン酸カルシウム、ナイアシン、B6、B1、B2、ビオチン、葉酸、B12)、保存料(ソルビン酸カリウム)、酸化防止剤(ミックストコフェロール、ローズマリーエキス) |
成分 | たんぱく質23.0 %以上、脂質12.0 %以上、粗繊維2.5 %以下、灰分6.7 %以下、水分10.5 %以下、食物繊維6.6 %、ビタミンA 17,000 IU/kg、ビタミンD3 1,000 IU/kg、ビタミンE500 mg/kg |
糖質 | 約45.3% |
カロリー | 383kcal(100gあたり) |
ロイヤルカナン早期心臓サポート+関節サポートは、初期の心疾患をサポートする食事療法食です。
タウリン、L-カルニチンや、オメガ3系不飽和脂肪酸であるEPA+DHAを配合し、心血管系の健康に配慮。
加えて、ウコンエキス、加水分解コラーゲンなどの関節軟骨の健康をサポートする成分も配合されています。
②ロイヤルカナン 心臓サポート
商品名 | ロイヤルカナン 心臓サポート |
対象年齢 | 成犬用 |
生産国 | フランス |
原材料 | 米、肉類(鶏、七面鳥)、コーンフラワー、動物性油脂、コーングルテン、卵パウダー、加水分解タンパク(鶏、七面鳥)、ビートパルプ、魚油(オメガ3系不飽和脂肪酸〔EPA+DHA〕源)、植物性繊維、大豆油、酵母および酵母エキス、緑茶抽出物(ポリフェノール源)、フラクトオリゴ糖、マリーゴールドエキス(ルテイン源)、アミノ酸類(タウリン、L-リジン、L-カルニチン)、ミネラル類(K、Ca、Cl、Mg、Zn、Mn、Fe、Cu、I、Se)、ビタミン類(A、D3、コリン、E、C、パントテン酸カルシウム、ナイアシン、B6、B1、B2、ビオチン、葉酸、B12)、保存料(ソルビン酸カリウム)、酸化防止剤(ミックストコフェロール、ローズマリーエキス) |
成分 | たんぱく質24.0 %以上、脂質18.0 %以上、粗繊維2.7 %以下、灰分5.5 %以下、水分10.5 %以下、食物繊維5.5 %、ビタミンA 20,355 IU/kg、ビタミンD3 1,200 IU/kg、ビタミンE 500 mg/kg |
糖質 | 約39.3% |
カロリー | 414kcal(100gあたり) |
粒の大きさ | 約1〜1.3cmの粒 |
ロイヤルカナン「心臓サポート」は、先の「早期心臓サポート+関節サポート」よりも心臓病が進行した際に利用します。
「どちらを利用するのが適切か」に関しては、必ずかかりつけの獣医師の指示に従うようにしましょう。
EPA+DHA、タウリン、L-カルニチンを配合するほか、慢性心疾患による高血圧に配慮し、ナトリウム量が制限されています。
③ロイヤルカナン 犬用 心臓サポートウェット缶
商品名 | ロイヤルカナン 犬用 心臓サポートウェット缶 |
対象年齢 | 成犬用 |
生産国 | オーストリア |
原材料 | 鶏肉、米、豚肉、魚油(オメガ3系不飽和脂肪酸〔EPA+DHA〕源)、豚タンパク、セルロース、サンフラワーオイル、マリーゴールド(ルテイン源)、アミノ酸類(タウリン、グリシン、メチオニン、L-カルニチン)、増粘安定剤(増粘多糖類)、ミネラル類、ビタミン類 |
成分 | たんぱく質6.1 %以上、脂質5.1 %以上、粗繊維1.8 %以下、灰分1.5 %以下、水分76.5 %以下、食物繊維1.5 %、ビタミンA 30,000 IU/kg、ビタミンD3 330 IU/kg、ビタミンE 240 mg/kg |
カロリー | 131kcal(100gあたり) |
ロイヤルカナン心臓サポートウェット缶は、ステージが進行した心疾患の犬のためのウェットフードです。
タウリン、L-カルニチン、EPA+DHAを配合し、ナトリウムも適切な量に制限。
ウェットフードなので、食が細くなった高齢犬にも食べやすいのが特徴です。
④ヒルズ サイエンス・ダイエットプロ犬用 腎臓・心臓サポート機能 小粒 7歳以上
商品名 | ヒルズ サイエンス・ダイエットプロ犬用 腎臓・心臓サポート機能 小粒 7歳以上 |
対象年齢 | 高齢犬7歳以上 |
生産国 | アメリカ |
原材料 | チキン、トウモロコシ、玄米、マイロ、小麦、大麦、オート麦、動物性油脂、ビートパルプ、チキンエキス、コーングルテン、植物性油脂、ポークエキス、亜麻仁、小麦ブラン、オート麦ファイバー、リンゴ、ブロッコリー、ニンジン、クランベリー、エンドウマメ、ミネラル類(カルシウム、ナトリウム、カリウム、クロライド、銅、鉄、マンガン、セレン、亜鉛、ヨウ素)、乳酸、ビタミン類(A、B1、B2、B6、B12、C、D3、E、ベータカロテン、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン、コリン)、アミノ酸類(タウリン、メチオニン、リジン)、酸化防止剤(ミックストコフェロール、ローズマリー抽出物、緑茶抽出物)、カルニチン |
成分 | たんぱく質15.5%以上、脂質10.5%以上、粗繊維4.0%以下、灰分7.5%以下、水分10.0%以下 |
糖質 | 約52.5% |
カロリー | 356kcal(100gあたり) |
粒の大きさ | 約1cmの粒 |
「ヒルズ サイエンス・ダイエットプロ犬用 腎臓・心臓サポート機能 7歳以上」は、シニア期の腎臓・心臓をサポートする「機能性健康食」です。
たんぱく質やナトリウム・リンの量が適切に調整され、グルコサミン・コンドロイチン硫酸を配合することにより、関節と軟骨の健康維持もサポート。
⑤ベッツソリューション ドッグフード 心臓サポート
商品名 | ベッツソリューション ドッグフード 心臓サポート |
生産国 | イタリア |
原材料 | 乾燥鶏肉、タピオカ、鶏脂、ジャガイモ、加水分解サーモンタンパク、乾燥卵、乾燥ニンジン、乾燥豆、不溶性エンドウ豆繊維、サーモンオイル、乾燥魚、キャロブパウダー(イナゴマメ)、ビール酵母、ビタミン類、ビートパルプ、乾燥カモ肉、キシロオリゴ糖(0.4%)、ミネラル類、L-カルニチン、タウリン、オタネニンジン(0.01%)、凍結乾燥メロン果実(SOD源 0.005%)、酸化防止剤(ミックストコフェロール、ローズマリー抽出物) |
成分 | 粗たん白質29%以上、粗脂肪17%以上、水分10%以下、灰分10%以下、粗繊維8%以下、カルシウム270mg、カリウム0.18g、リン225mg、ナトリウム31mg |
穀物 | 無配合(グレインフリー) |
カロリー | 379kcal(100gあたり) |
粒の大きさ | 約1cmの三角粒 |
ベッツソリューション ドッグフード 心臓サポートは、心臓疾患の犬向けの食事療法食。
心臓機能の維持をサポートするため、タウリン、カルニチンを増量、低ナトリウム設計となっています。
⑥ドクターズケア 犬 ハートケア
商品名 | ドクターズケア 犬 ハートケア |
対象年齢 | 成犬用 |
生産国 | 日本 |
原材料 | トウモロコシ、ミートミール、動物性油脂、脱脂大豆、米粉、おから、フィッシュオイルパウダー(EPA・DHA源)、全卵粉末、ウィートブラン、チキンレバーパウダー、フラクトオリゴ糖、L-カルニチンフマル酸塩、グルコサミン、セレン酵母、グルタチオン酵母、マッシュルーム抽出物(シャンピニオンエキス)、小麦粉、ビタミン類(A、D3、E、K3、B1、B2、パントテン酸、ナイアシン、B6、葉酸、ビオチン、B12、C、コリン)、ミネラル類(カルシウム、リン、カリウム、塩素、マグネシウム、鉄アミノ酸複合体、鉄、コバルト、銅アミノ酸複合体、銅、マンガンアミノ酸複合体、マンガン、亜鉛アミノ酸複合体、亜鉛、ヨウ素)、アミノ酸類(タウリン、L-シトルリン)、酸化防止剤(ローズマリー抽出物、ミックストコフェロール) |
成分 | たん白質24%以上、脂肪17%以上、粗繊維4%以下、粗灰分9%以下、水分10%以下、カルシウム0.55%以上、リン0.35%以上、ナトリウム0.25%以下、タウリン0.20%以上、L-カルニチン500ppm以上 |
カロリー | 400kcal(100gあたり) |
粒の大きさ | 約0.8cmの粒 |
ドクターズケア 犬用ハートケアは、心臓病の犬の食事管理を目的に開発された療法食です。
タウリン、カルニチンを配合し、ナトリウムの含有量が調整されています。
また、初期の慢性腎臓病に配慮してリンの含有量が調整されているのが特徴です。
まとめ
高齢になると心臓病にかかる犬が増えますが、少しでも早く症状に気付き、適切な処置をとることが重要です。
獣医師の指示通りに薬をしっかり服用し、症状に適したドッグフードを利用しながら、病気と上手につきあっていきましょう。